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2010.03.01
Run&Gun 44

夏が終わりを告げ、季節は秋へ入ろうとしていた。
しかし自分のこれまでの試合の全出場時間をトータルしてもおそらく10分にも満たないだろう。
夏を無事に終えた達成感よりも「このままではマズい」という気持ちが心の大半を占めていた。
かと言ってすぐに上手くなるものでもない。
毎日の練習には少しずついていけるようになって来たつもりだったが、先生から見たらまだ僕なんて在籍してるかどうか分からないような存在だ。
だから、ゆっくり成長すれば良いと自分自身に言い聞かせていたが、これだけ出られないのはやはり辛い。
もっと上手くなりたい。
もっと試合に出たい。
でもその答えは見つからずに、まだもがいている日々だった。
チームとしては徐々に迫って来た初の公式戦に備え幾つかの練習試合も消化したが、その中で問題点も浮かび上がって来た。
まず試合の入り方。
比較的、楽な相手と思われる試合であってもズルズル付き合ってしまい点差が離れるまでに多少の時間がかかる事があった。
そしてプレイ面での波。
好調時は全体的に驚くようなプレイを連発する一方で、ゴール下やフリーの速攻を外してしまうなどのらしくないプレイが見られる事もあった。
でもそれらの問題点は後々になって気付く事であって、その時の僕は期待しかしていなかった。
なにしろセチノさんから聞いた「今年はいける!」という言葉。
今年こそ全国…。
色々な事が起こるかも知れない…。
いや、起こすのは僕らの先輩達だ…。
レギュラー争いの先輩達はもちろん、ベンチ入りの当落線にいる選手達からもいつも以上の気合いが伝わって来る。
大会直前には5対5の練習もよくおこなわれ、フォーメーションプレーやゾーンディフェンスの陣形の確認などをした。
通常はマンツーマンディフェンスを基本の戦術として取り入れていた取根向陽だったが、こういった大きな大会の前にはゾーンの練習をする事もあった。
今年のスタメンと目されるメンバーのゾーンは迫力があり、最初に見た時は本当に驚いた。
みんな背が高いから手を広げているとコート全体が埋まっているように見えたんだ。
他の選手も最後までアピールを続けていた。
先生は選手一人一人の細かな調子まで見定めてから選考していたせいか、大会登録メンバーの発表はギリギリになった。
04 ハッチ(二年)
05 チョー(二年)
06 ムラ(二年)
07 ブッちゃん(一年)
08 ヤカッチ(一年)
09 エノ(二年)
10 ミッチャン(二年)
11 タケヲ(二年)
12 ピロツグ(二年)
13 ノガンチ(二年)
14 イマハピ(一年)
15 コマトゥ(一年)
16 窓光(一年)
17 タケシタケシ(二年)
18 バンバン(二年)
新チームにとって最初のベンチ入りメンバーが発表された。
夏から続いてきた厳しいユニフォーム争奪戦を経て選ばれたのは今大会ではこの15名だった。
このメンバーで戦うのは、まず県南地区から。
新人戦は前年の成績が考慮されないので、どんなチームであっても地域大会からおこなう事になる。
関東高校新人バスケットボール大会 茨城県南B地区予選会
県南地区は二つに分けられ、それぞれトーナメントをおこなった。
僕らはあまり苦戦する事無く勝ち上がり、無事に優勝をした。
チームにとってもこの地域大会はあくまで県大会への前哨戦であるため、危なげなく勝利して当たり前という雰囲気があった。
長い戦いが始まったに過ぎず、この優勝くらいでは誰一人喜んではいなかった。
僕自身も県南相手にどう戦うかなんて全く気にしていなかった。
それよりこういう地域大会では久々に昔の仲間に会えるのだけが楽しみだった。
菊崎中出身でバスケを続けているのはこんな面々だった。
牛木進栄高校→ティハラ
菊崎高校→クマ、ダイジュ
並木道高校→マッチン、ヨコちゃん
藤広白水高校→ハマ
牧園高校→マミヒト
それぞれが置かれた立場は違うけど、懐かしい顔が頑張っている。
彼らと会場で会い言葉を交わすのは僕のひそかな楽しみだったけど、次の年からは地域大会のレギュレーションも変更になり県西地区に振り分けられてしまった学校もあったため、皆とはさらに会える機会が減ってしまった。
加えて僕らはふだん県大会から出場する事が多かったから、この大会以外だと県大会の会場でしか会えない。
だから皆の学校には「県大会まで勝ち上がって来てほしいな」とこれまたひそかに応援していた。
そんなふうに心の中に余裕を持てたまま県南B地区の予選が終わったが、県南A地区のほうはとんでもない事になっていた。
あの土倉西大と霞学園が対戦するのだ…!!
地域大会でいきなり県の上位対決が見られる。
その年の土倉西大のキャプテンはタカツさんという人が務めていた。
僕と同じ稲浦郡のあの桜沢中出身の選手だ。
それ以外にも稲浦郡・阿目中出身のハラーさんがいたり、ベンチにも桜沢出身の選手が座っていたりと見た事のある選手は何人かいた。
びっくりしたのはガード陣だった。
04 タカツ(二年)-----F
05 ハラー(二年)----PF
06 タササキ(二年)--C
10 キメジマ(一年)--G
11 サカエ(一年)----G
僕と同学年のキメジマとサカエ…。
もう土倉西大のスタメンになっているじゃないか…。
何なんだアイツらは…!!
しかしもっと驚いたのは今年の霞学園だった。
04 ヤマオキ(二年)-----PG
05 ザルビ(二年)----SG
09 タカバ(二年)----PF
10 ムラサン兄キ(二年)--F
11 タケタ(一年)----C
今年の霞学園はより軍隊化が進み、アップの時点で前年以上の異様な統一感が出ていた。
チームジャージの着こなしは全員同じだと前にも伝えたが、主将のヤマオキさんだけが唯一違う着こなしをしている。
皆が『半袖+長ズボン』に対して、彼だけ『半袖+半ズボン』といった具合だ。
監督が主将を見つけて指示をしやすいというのがあったかも知れないが、それ以上に今年はヤマオキさんのチームだと言う事がビシビシ伝わって来る。
関東高校新人バスケットボール大会 茨城県南A地区予選会
決勝
土倉西大vs霞学園
「ウオオオォォォーーーーー!!!!!!!」
ドドドドドンドドドドドンドドドドドンドドドドドンドドドドドン!!!!!!!!!
「行けっ、おせっ、行けおせ西大っ、行けっ、おせっ、行けおせ西大!!!」
「飛べっ、飛べっ、飛べぇ〜ジャンプだタカバ〜(ジャンプだタカバ〜!!)」
両校ともこの時点で県大会への出場は決まっていたが、応援席の盛り上がりはそんな事を感じさせない。
その年の霞学園はとてもカッコよくて、ライバルでありながら僕の大好きなチームになった。
5番のザルビさんはチーム一小柄だがミスが全くなく、いかにも仕事人と言った感じの選手だった。
彼もまた桜沢中出身だ。
ちなみに局面によっては一年のフクちゃんが出場した。
中学時代に対戦した時は勝利したはずだが、全ての面で伸びていてもはやあの時の面影はなかった。
11番のタケタは僕と同学年で美湖中出身のセンターだ。中学時代はチームでも絶対的なセンターでなかったが霞学園のスタメンになるなんて相当鍛えられたに違いない。
またセンターのポジションはタケタだけでなく、12番をつけたアサモという選手も出場していた。
彼は龍ヶ浦市の長浜中出身の選手だ。中学時代何度も練習試合をした事があったので顔を覚えていた。あの学校は弱かった。
だから彼が霞学園の主力になっているのには驚いた。
彼もまた相当な努力を積み重ねこのコートに立っているのだろう。
10番をつけているのはムラサン兄キ。彼は顔が僕らの先輩のムラさんに似ていたのでこのようなアダ名で呼ばせて頂いた。
しかしそののほほんとしたアダ名とは裏腹に、勝負所になればなるほど彼の外角シュートは際立った。
忘れた頃にやって来るムラサン兄キのシュートはいつも恐ろしかった。
そして9番タカバさん。
前年からレギュラーで活躍していた選手であったが、その時はセンターだった気がする。
今年はセンター役を一年生に任せる事で自身はより広い範囲からの攻撃を担当していた。
このポジション変更が彼をさらに怖いプレイヤーにした。
とにかくジャンプシュートの精度が鬼。
中学時代には現主将のヤマオキさんのチーム(牛木一中)を敗ったくらいだから元々素晴らしい選手ではあると思うけど、とにかく今年のタカバさんは何段階か上のレベルに到達してしまったように見える。
そして4番ヤマオキさん。
タカバさんと双璧を成すエースプレイヤーでありチームの主将。
身長は僕と同じくらいだったから彼のプレイはかなり注意深く見た。
曲芸的なプレイは一切しなくて、空いたらジャンプシュート、前に来たらカットインと非常にシンプルだった。
が、そのレベルが凄まじい。
抜群のスピード、外したのを見た事がないくらいのシュート精度、そしてリーダーシップ。
ドリブルやパスひとつとっても無駄なプレイを一切しない選手だった。
さらに、ここ一番ではその能力がさらに増しているようにも見えた。
対する土倉西大は夏のインターハイに出場していたチーム。
新主将のタカツさんがエースとなって動き出した彼らだったが、夏に全国まで出場していた事もありその時点でのチーム完成度は明らかに霞学園より劣っていた。
ガード陣のキメジマ&サカエもまだコンビの息があっておらず、霞学園のヤマオキ&ザルビには及ばない。
しかしこういうハンデが重なっても、毎年必ず勝ってしまうのが王者の強さだ。
スパッ!
「いよぉーーし!」
土倉西大5番ハラーさんがフリースローを確実に2本とも決める。
ザシュ!!
何事もなかったように霞学園9番タカバさんが45度から沈める。
「スリィーーーー!!!」
土倉西大4番タカツさんも譲らない…。
ダムッ…!!
ビッ!!
鋭いカットインから綺麗なジャンプシュート。
今日何度も見た光景だ。
またしてもあの人か…!
「ヤマオキ!ヤマオキ!ヤマオキ!ヤマオキ!ヤマオキ!ヤマオキ!」
勢いの霞学園か…?
歴史の土倉西大か…?
どうなるんだ…。
そして大歓声の中、その試合は終了した。
土倉西大 66
霞学園 84
霞学園、県南A優勝…!
あの西大が敗れた…!
この大会はタイトルには関係ないが、霞学園ベンチはまるで県を制したような大騒ぎだった。
それもそのはずだ。まだ県大会で無いとは言え、確かに歴史を揺るがした大きな瞬間だ。
いつもは軍隊のような彼らが珍しくガッツポーズまでしている。
対する王者は県内ではまず見せた事がないような表情だ。
サトウラ監督にとっても、きっと予想外の出来事だったに違いない。
僕は思っていた。
「今年は大変な年になるぞ…!!」
続く----------------
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